大山の家

「東京S邸:象徴」

東京S邸、ご自宅での打合せにも参加させて頂いた。現場見学もさることながら、この家に住まうご家族に会える事を楽しみに東京に向かっていた。

東京都庁が見える

東京都庁が見える

打合せが進んでいく。先ずは親御さんの世帯から始まり、子世帯の打ち合わせへと進む。前回から持ち越した内容と、今日の議題をメモしてあり、双方確認し合いながら、理路整然と議事進行していく。仕上げ類など、施主のお好みを聞き出しながら、自分の意見を入れて統一された空間へと導いていく。仕上げの色の決定では特に重要な事だ。建物の評価は過程ではなく、結果でしか評価されないので、ここの意見の集約は大事なものだ。

この整然と議事が進む様子を傍で見ながら感心していたが、もっと驚いた事は親子、御夫婦の間で真剣に意見をぶつけ合っている事だ。こちらではよく、親子喧嘩に陥るが、あくまで意見や考えをぶつけ合いながら、方向を定めようとする。これには感動した。S邸ご家族の家族を見た思いだ。聞けば月に一度、御兄弟その子供さん一同がこの家に集まり、食事を共にしながら語らうのだという。「家族とは」その事を強く意識させられる。私も子供を持つ親であるが、自分の兄弟など遠方に散っている事もあり、全員が集う事はこの先ないであろう。羨ましくもあるが、そのために御家族全員が時間を作り、集うその姿勢にとても感動した。
和室天井

和室天井

S邸は二世帯、三世代が住まう家である。1階は親御さん、2階は息子さん御夫婦とその子供さんの住まいだ。そして先に紹介した、この御家族ゆえの空間が、一階にある和室だ。客間としても機能するが、家族が集う場としても絶妙の位置に配されている。1階世帯、2階世帯それぞれの独立の玄関があり、2階世帯は玄関で靴を脱いで、直ぐに階段を上って2階に上がるのだが、2階世帯の玄関の真正面に、この和室は配されている。玄関から入る度に、自然にこの和室が意識される事になる。1階世帯からは、主室から庭を介して和庭を持つこの空間に正対する。勿論この室の外観は内部に想像されるそのままの和の建築だ。

母屋と隅木は北山杉磨き丸太

母屋と隅木は北山杉磨き丸太

各世帯の自然な視線の先に配された、家族の空間。「象徴」と表現させて頂いたが、造形としての日本建築も見せながら、家族を象徴させる。二世帯住宅への提案でもあるし、この御家族ならではであるとも言える。建築は数値や性能だけでは表せない部分が多いし、生活は既成の枠に押し込められるものでもない。「家」のありようを深く考えさせられる。

(黒坂)