大山の家

「東京S邸:青森の杉」

東京S邸、内部の造作も大分進んでいる。構造部分の赤松は紹介してきたが、造作材での杉を紹介していきたい。勿論、杉も丸太から採っていくので、木目を揃えながら、加工している。先ずは「窓格子」を。図面の中でも見付(みつけ:見えてる幅の寸法)と見込(みこみ:奥行き)そして、メンの取り方(角の部分)と格子の間隔が、事細かに図示されている。ここは私自身大いに勉強させて頂いている部分で、絶妙のバランスを持っている。

格子

格子

次に天井の羽目板を。この羽目板の張り方や加工の仕方も、ここ数年で上手くなったと思う技術だ。ひいた写真では、長手の方向へ板を張っている程度にしか見えない。

縁廊下天井

縁廊下天井

アップで見てみるとこれが面白い。普通は板の幅も長さも同じものを交互に張っていくので、一つおきに目地が定型で並ぶ。これが写真を見ると、それぞれ幅が違い、継目もまちまちだ。これは何も適当に張っている訳でなく、一度仮に並べて目地が通らないようにしながら張っているからだ。倍以上の手間が掛るのだが、そのお陰でとても自然に見えるから不思議だ。今回は木肌の色が合っている事も、注目頂きたいが、この理由は仕上げと共に紹介していきたい。

杉羽目板張り

杉羽目板張り

そして最後に、杉板の羽重ね張りを。このブログではまだ紹介していない一室。この家の象徴とでも言えるような部屋の天井である。鳥の羽根のように片側の載せ掛けるようにしながら重ねていく。羽目は木の木口(こぐち:切り口のこと)が見えない張り方であるが、これは小口が見える。小口と言っても薄く削がれているので、殆ど木の厚みは見えない。この張り方の向きで、客がどちら側からこの部屋に入るのかが分かるのだが、それも完成の折に触れたい。屋根の垂木も普通は長方形断面であるが、猿頬と言って下端側に向かって側面を削って落としている。断面が猿の面に見える所以、そう呼ばれる。

羽重ね張り

羽重ね張り

ちょっと専門的な処の紹介になったが、同業の方にこそ見て頂きたい思いもあり記している。床の間を例にとると「シンプルで日本的」と言われる事がある。縦と横に組まれた、線としてはシンプルだろう。しかしそこには、床框、床柱、落し掛け、付け書院などあれば地板や書院障子など、複数の樹種がそれぞれの材寸で取り合いながら、微細な寸法で対峙している。これをシンプルの一語で語れるものでは無い。東京S邸は大きな建築であるが、そういう微細な仕事の成り立ちの上になっている。

(黒坂)