大山の家

「東京S邸:窓外」

通りから敷地に導かれる視線の仕掛け、玄関までのアプローチにおける視線の誘導、玄関を開けて何を見せるか、廊下の先にどう導くか。。。外部は完成と共に紹介させて頂くが、先ずは窓の外に広がる景色をどう取り込んでいるのか、ご紹介したい。完成後に紹介すればいい事であるが、足場があり外があまり見えない状況との比較をしたいがための今回の紹介である。

1階縁廊下

1階縁廊下

上は1階の親世帯の縁廊下の並ぶ南面の窓である。道路に正対しているが、この家の象徴である和室と主庭、通り境の塀に遮られ通りからは全く覗かれる事がない。窓外で青いシートに覆われているのが和室で、内外部とも数寄の空間が広がる。和庭を併せ、この景色を見ながら生活出来る事は、何よりの落ち着きをもたらすものと想像する。

2階LDK

2階LDK

その上の階の、子世帯のLDKの南面の窓である。1階2階とも1間半(2.7m)の幅の窓が三窓並ぶ。その左側に奥に続く廊下が見える。主庭に面した廊下であるので、各室そして階段を上がってきた時に主庭が目に入る訳だ。窓正面の青いシートは先ほどの和室の屋根。ここはまだ屋根を葺いていないので、シートで養生しているが、2階世帯も和室を見、主庭を眺めながら陽光を浴びる。

2階書斎

2階書斎

2階リビングの北側の一角、ご主人の書斎の窓だ。北側の隣接地は、3階建ての賃貸住宅であるが、綺麗に共用の庭が整備され、窓外にうっすらとピンクの色が見えるが、山茶花(サザンカ)が咲いていた。北側の室であるので、本を開くには最適な間接光になり、隣接地にしてみれば南東の日当たりに良い場所なので、このような植栽が施されている。これをS邸では、借景として楽しませて頂く。赤松の地板が取付けられているが、これが机となる。窓には障子が入ることになる。

2階浴室

2階浴室

最後に2階浴室の窓だ。透明ガラスが入っている。驚かれる方もいらっしゃるだろうが、透明ガラスだ。敷地東側に面するここは、隣地の住宅もこちらに向く面に窓がない。2回で下からは仰角となるので、覗かれる心配もないが、この窓外に花台を設け眼隠しも兼ねる。面積に算入されない、窓外の景色も浴室空間となる。私がお邪魔した折に、ここの打ち合わせをされていて「照明を消して月明かりでの、入浴は素敵でしょうね」と勝手な事を申したが、それも楽しみにされたようだ。私は自宅のユニットバスであるが、夏場で月が良い時は浴室の明かりを消し、窓を開けて月を見ながら風呂に入る。湯船に浸かり月を見るのは、密かな楽しみの一つだ。

そんな楽しみが随所にある家が東京S邸である。建築を考える時「壁から内側」と私は言うのであるが、外壁より内側の部分しか考えないものが多い様に感じている。「大山建工にはプラン集がありますか?」と聞かれる事がある。大手ハウスメーカーにはプラン集なるものがあって、その本の中から間取りを選ぶのだそうだ。これには驚く。建てる敷地があり、住む人があって初めて計画出来るものであるのが建築であるのに。窓外に広がる景色も含めて、S邸のご家族が日常を楽しまれる様子が目にうかぶ。

(黒坂)