大山の家

長押(なげし)

長押(なげし)というと見たことはあっても、名前だけでは何?聞いてもわからないという方も多いのではないでしょうか。

長押とは、現在では鴨居の上にある柱の表面に水平(横)に取り付けた化粧材を言います。よく和室などで見られますが、日本独自のものになります。

長押の歴史は長く、古くは柱を立てた後に柱と柱を外側から連結して補強する構造材の役割を担っていました。
和様建築が発達する中で柱をしっかり立てておくために柱の両側から通しで挟み付け、大釘で留め構造的に強度を強くしたのが、長押の始まりと言われています。
また、長押は取付け位置によって呼び名が異なります。下から「地覆(じふく)長押、腰長押、内法(うちのり)長押、蟻壁(ありかべ)長押、天井長押など」になります。
昨今では長押と言えば鴨居の上につく「内法長押」を指していますので、打合せ等で「長押」という言葉を聞いたら鴨居の上についてる横長の材だな・・・とイメージしてください。

洋室に装飾または洋服掛けの用途として設けられている事がありますが、こちらは「付長押」と呼ばれることがあります。和室に付く長押も構造材ではないので厳密に言えば「付長押」ですが、和室につける場合を「長押」、洋室や廊下などの大壁につける場合を「付長押」と分けて説明される場合もあります。その場合は、イメージしやすいように分けてるんだな…と思いながら聞いていただくと会話にズレが生じにくいかと思います。和室も洋室も同じ「長押」と説明される場合もあります。意匠は異なることがほとんどですので不安なことがあったら確認することをおススメします。

※大壁についているフック付長押(商品名:インテリア長押)

長押の形の多くは、下が厚く上が薄い台形になります。
「せい」は柱寸法を基準にして、柱幅の8~9割のものを「本長押」、6~7割のものを「半長押」と呼びます。

※ 和室の長押(杉の柾目)


また、長押は細く長く薄い形状となり、効率よく丸太を製材することが大切となります。長押は、下面と正面だけしか見えないのでななめに製材する長押挽き(なげしびき)という工法が取られます。

    
※【向かって左】柾目材になるよう丸太の中心から放射状に裁断する方法になります。(これは一例です。)
※【向かって右】 当社の資材置き場に保管されている加工前の材です。このあと和室に取付ける長押に加工されていきます。

《 ここで豆知識⑨! 》
長押は、寺院建築では「和様」、住宅建築などでは「書院造」の特徴となっています。
室町時代に誕生した日本住宅の原型と言われる 「書院造」 は、格式・様式、身分序列に重きをおいた「武家造」と言われたことがあります。江戸時代には禄高1000石以上の旗本の住まいだけしか「長押」の設置が許されない時期があり、この頃から長押は格式を象徴するものの一つとなりました。「長押」がついている部屋イコール「格式」が高い部屋という認識が広がることとなったのです。(昨今では、その認識は薄くなっています。)

材料の多くは柱と同材が用いられます。別材の場合は、杉材が多く使用されています。木目は柾目材(木目が真っ直ぐ平行に流れた材)が多く使用され、特に杉の糸柾などは良材とされています。

なぜ柾目なのか・・・。柾目は、すっきりと洗練された印象をあたえるという理由もありますが、収縮や反りなど変形や狂いが少ないこと、丸太の中心部からしか取れないため切り出せる数が少ないことなどから、どうしても板目よりもコストが高くなってしまいます。この名残から今でも癖のない無節、柾目材が多く使用されています。まさに格式を象徴するにふさわしい材と判断されたのかもしれません。

「書院造」とは反対に、格式を否定する「草庵茶室」などや軽妙洒脱な「数寄屋建築」では「長押」は省略されることがほとんどです。草案茶室の流れを汲む「数寄屋風書院」においては、半割の「丸太長押」や「面皮長押」を用いることがあります。これらを頭の片隅においていただくと和室を見る楽しみが一つ増えるのではないかと思います。

※丸太長押

また、長押を納めるには、長押挽きなどの加工に雛留(ひなどめ)、枕捌(まくらさばき)、片捌(かたさばき)など床柱との兼合いなど多くの知識と技が必要とされます。長押がきれいに納められた和室で気持ちよく落ち着いた時間が過ごせているとしたら施工していただいた大工さんなど携わってくださった方々に感謝です。(かねた)

※枕捌