大山の家

上り框(あがりかまち)

框(かまち)と調べると、建築用語として、
① 窓、障子、襖(ふすま)などの建具の周囲の枠。(上(あが)り框、下(さが)り框、重ね框、掛引き框、出合い框など)
② 床(ゆか)に段差があるとき、床の面の端を隠すために用いる化粧横木。(上り框、床(とこ)框、縁(えん)框、店(みせ)框、中棚框、舞台框、踊場框など)
③ 丹後(たんご)(京都府北部)地方産のヒノキ材の規格。(指物師(さしものし)の用いる大框、中框、小框)
④ 畳の短辺、すなわち畳縁(たたみべり)をつけない部分、畳表を巻き込む部分。
⑤ 石工の道具で、一方がとがった大形の金槌(かなづち)。
と5種類も出てきます。正直、個人的に知っているのは①と②だけでした。
今回は、その中の②にある上り框(あがりかまち)について記したいと思います。

上り框は玄関や勝手口など段差がある個所で主に土間から床に上がるところをいい、室内の床材・床下地などの切断面を隠す役割を果たしています。
《ナラ材の上り框》

玄関の上り框は、玄関に入って1番目2番目くらいに目に入ってくる部材で、家の中まで入るお客様、玄関先で帰るお客様など多くのお客様の目に触れます。なので、その家の顔の1つと言っても過言ではありません。

と書いてみましたが、意外に気にされてないというかスルーされていることも多いんだなと感じることもあります。ちょっと変わった上り框があるお宅でも「全然気が付かなかった」という反応を耳にすることがあるからです。もしかするとサラッと見過ごされてしまう部材でもあるのかもしれません。靴を脱ぐ習慣がある日本ではあって当たり前なものだからでしょうか。でも、大きい存在感を醸し出していることに間違いはないと思っています。

下記写真はケヤキの上り框です。ケヤキ本来の色に木目(板目)がきれいに出ています。切る個所によって表情が変わるのも自然が作り出す美しさですよね。この上り框だけでグッと玄関の印象が変わり、明るく高級感が出てきていると思います。
《ケヤキ材の上り框》

中には、上り框にすごいこだわりを持っている方もいます。
自然の木のままの形がいい、節がある木がいい、節が無い目の揃った木がいい、天然の大理石がいい、曲線がいいなどです。

下記の写真は自然の形を生かした上り框です。材質は赤松です。節も意匠として趣を持たせたものになっています。あまり長さはありませんが迫力がありますよね。
《赤松の上り框》

また、下記写真はさくら御影石を加工した上り框になります。車椅子でも上がれるように傾斜を付け、滑り止めを彫って設置しています。木とは違った美しさになっています。
《さくら御影石の上り框》

どれも目を引きますよね。
上り框は土間から床に上がるところにあることから、外部の埃や砂などによる汚れ、人の動きによる摩擦、昇り降りの際にかかる荷重など多くの負荷がかかるため、素材を選ぶ際には、意匠的に優れた材質の他に耐久性にも優れた材質を選ぶことをおススメします。

《 ここで豆知識⑦! 》
床を張り替える時、上り框の部分はどうなるんだろうと思う方もいらっしゃると思います。
もちろん外して新たな框を付けることもできますが、施工が大変になるため工事費が高くなってしまいます。
基本的にリフォーム工事を行う場合、引き算より足し算の工事をした方が工事費および工事期間は抑えられます。

例えば床の張替を引き算で考えた場合、現在張ってある床材の解体工事が必要となります。床材および床下地材を剥がすだけでなく、その下の根太や大引まで影響が出る場合もあります。(上り框であれば土間の立ち上がり部分にも影響してきます。)そして、その床に接している壁の納まり、建具の兼ね合いなどの問題解決も必要になります。また、廃材の廃棄量も多くなり、工事手間もかかり工事期間も多く必要となります。
逆に足し算で考えた場合、現況の床の上に新たな床を張ることになるので、解体作業は最小限ですみます。解体が少ない分、工事手間が抑えられ工事期間を短くすることができます。ただ、床の高さが床板分高くなるので、引き算工事と同じく床に接している壁および建具の兼ね合いなどはしっかり確認する必要があります。また、既存の床の強度が保たれそうにない場合は、足し算工事は出来ないため、お願いする業者さんにしっかり下の状態を確認してもらうことが重要となります。

また、床を足し算した場合の上り框ですが、やはり足し算をします。現在は、リフォーム框としてL型の既成品がありますが、大工さんに造ってもらって被せる場合もあります。

足し算工事がいいのか引き算工事がいいのかは、工事業者の方とじっくり話をして納得してから進めてください。なんとなく進んでしまったという事だけにはならないようにご注意ください。

余談ですが、以前、手掛けた住宅で自然の木の形を生かした上り框がありました。L型の既成品を被せるだけでは空洞が出来て強度的に問題が出るし、せっかく素敵な上り框を削るのはもったいないし大変な工事になるしなと思っていたら、大工さんが既設框と同材を用意し、現況の形に合わせて削り、框の上に張ってくれたんです。もちろん全然違和感なしです。その時は、自然の形も足し算工事でこんなにキレイにいくんだという驚きと、それを仕上げた大工さんの腕に感動&感謝するばかりでした。
ちょっと変わった形や材質でも工事業者の方に相談してみてください。思いもよらないアイディアが出るかもしれません。(かねた)