大山の家

濡縁と下屋

『バンドソーで挽割作業』

久し振りにブログ記事を。

ここ数年は木造準耐火構造の老人福祉施設や診療所関係、鉄骨造などに携わっていたので、木の建築を記したいこのブログに記事を書けずにいましたが、濡縁と下屋を築造したいとの仕事を依頼され、良い材も取れたので少し紹介していきます。

写真は柱や梁が取れるようにと角に挽いて寝かせていたヒノキ。濡縁なのでヒバを使うつもりでいたところ、若松棟梁から「良いヒノキが一本あるからこれを使ってみるか?」と問われ、施主の了解も頂き早速バンドソーで挽き割っているところ。

自社の加工場で自分達にしてみればいつもの光景であるが、施主にこの写真を見せた折「今は板材も製材所から買ってくる事が当たり前なのに、こうして木を板に挽くところが見れて、それが自分の家に納まるなんて感無量です。」とおっしゃられた。

茶道を嗜み、その縁で数寄屋建築を訪ねて京都に何度も行かれている方であり、花を愛でたりちょっとした工作も自分でなされる方なので、木の事も良く知っておられる。ヒノキなので挽割ると良い香りが漂うのだが、この木を使う事と決めて挽割るところにお連れしても良かったなと、少し反省もした。

『左が樹皮側で右が芯側』

これが挽割った材。左が樹皮側(外側)で右が芯側になる。針葉樹なのでこうして樹芯から枝部分が節として出てくる。如何だろうか、濡縁として使うなら左の節の無い面を選ばれるというのが当然であろう。

ここで良く見て頂きたいのがその左側の材面。材両端が白太であるのがお分かりになるだろうか。建物内部に使うならこれも良いのだが、今回は風雨の当たる外に使うもの。白太は朽ちるのも早く外部には使いたくない。永く使って頂きたい思いから、あえて節の在る赤身の方を使わせてくれとお願いした。

実はこの家には既存の濡縁もあって、それは無節のヒバで作ったのだが、今回増設する濡縁は「小節を見せて表情も楽しみましょうか」ともお話ししたのだが「無節は綺麗だけど、この節の表情を見ると味気なく感じるね」ともおっしゃられた。実はその無節の既存濡縁も若松棟梁と作ったものであるので「味気なくても良い材料なんですけどね」と笑いあった。

一本の角材から板に挽き、どういう表情を見せて仕上げていくかを積み重ねていく木の建築。本当に小さな工事ではあるが、木は良いなと心底思い、またその良さを共有頂ける施主との出会いが、これもまた木の建築なのだと実感する。

設計:黒坂