弘前W邸、図面が確定する前に、実は既に木材を準備している。木材と言っても製材された製品ではなく、山に生えている木だ。これは奥様の親御さん所有の山から伐り出された。「使えるなら是非使って欲しい」そう言われた。勿論、喜んで使わせて頂く。これが伐るだけなら簡単なのだが、峻険な山あいから降ろさねばならない。これが実に難儀であったが無事運び出し、現在はその丸太のままで寝かせている。杉をメインに、唐松と赤松も少々伐らせて頂いた。家全部をまかなえる量ではないが、構造材の6~7割はカバー出来そうである。実施設計図作成後、それに合わせ挽いていく事になる。
二日に渡って木伐りが行われ、奥様とご主人それぞれが立ち会わられた。掲載の写真は、その施主のお二人が撮られたものである。私は都合で行けなかったが、当社の社員と大工が立会い、木を見ながら伐らせていった。ここが我々の造る木造建築の他社と違う処の一つでもある。立っている木を見て、出てくる目や節の具合を想像しながら、使える部位を思い巡らし伐らせる。下の写真の木、これなら通し柱に使えそうだ。また幹の根際部分などは綺麗な玉杢模様がでるので、板材として加工しようと思う。
一般には材寸を指定して製材所に注文し、製材品を買う。何もこれを否定するものでない。当社もそういう買い方もする。只、丸太の素性を活かさねば出来ない建築の場合は、生きている木を求める。この家は2階に登り梁を6本掛けている。横架材は粘りのある松を使うのが常套であるが、勾配を持って掛けられる登り梁は、ここの杉で掛けようかと思っている。楽しみだ。
伐採の日、木の幹に蝙蝠が留まっていた。日中の昼日中に珍しいと思う。お昼寝中(夜行性だから昼寝とは言わないだろうが)別の木に留まって頂いた。中国では福の字が入っているので、縁起の良い動物なのだそうである。福が迎えてくれた。W邸ご家族の日頃なのだろう、そう思わずにいられない。
(設計:黒坂)