大山の家

「弘前W邸-完了」

全景

全景

弘前W邸、全工事が完了した。12月の初旬に完了し、施主ご家族、地元弘前でお世話になった方々と、御主人の計らいで一席設けて頂き、しばし時間を忘れて語りあったのも、つい先日の事。久し振りにお会いする方もいらして、旧友にあった様なそんな感慨に浸りながら、思い出話しに花を咲かせた。それでも不思議な事に「これで終わり」一向にそんな気持ちが湧いてこない。それだけ長い年月を掛け、この工事に傾注したからであろうか。

住宅の完成後に、それに付随する工事として、門と車庫、融雪工事と舗装、植栽工事が続いた。隣地での工事などもあり、住宅完成から一年を置いての外構着手となったが、その間も打合せを重ね、毎月の様に弘前に通っていた。震災もあり着手を延期した事もあって、完成が12月にずれ込んでしまった。例年の弘前の天候を鑑み「遅くても11月には終わらせて欲しい」という依頼であったが、今年の天候のお陰もあって12月でも植栽が出来た事には、ほっと胸を撫で下ろした。

ポーチより門を望む

ポーチより門を望む

住宅の前は貸している駐車場であり、頻繁に人が出入りするので、目隠しを兼ねて塀を立て視界を遮り、門内にはプライベートな空間を持てる様にスペースを確保した。門から玄関までは30㎝角のタイルを貼りその下には融雪用のパイピングを施している。地下水の持つ温度で雪を溶かす。

門の基礎が出来、玄関前がセパレートされた時に「狭い」という感覚を持たれないかと、一人不安を抱えていたが、タイルを貼ってみると、想像してした以上に空間が広がりを持ち、セパレートされた安心感もあって、来客への応対や、奥様の園芸スペースとなっている。「広い」そんな言葉が聴けたのは嬉しかった。また和室前には専用の和庭を設け、縁側越しに見る和室からの眺めに応える。写真には無いが、住宅西側には野菜の栽培コーナーも作ってあり、家の南から東にかけて、それぞれの用途を持った庭が展開されている。

スロープより和庭を望む

スロープより和庭を望む

津軽の地では、杉は安価な材料とされ、ケヤキとヒバが重用されると聞く。W邸は土台こそヒバであるが、柱の殆どを杉として、見える梁も敢えて杉にした。玄関の飾り棚にはケヤキを用いている。和室を構成する杉。柾目、板目を使い分けるのは勿論であるが、杉のその木目の素直さ、木の質感は本当に気持ちが良い。建築当初よりもだいぶ色が落ち着き、よそよそしさが無くなった頃合いであるが、家族の成長と共に、更にこの家の色になって行く事を思うと、大工も仕事冥利に尽きるだろう。

住宅建築でこれだけの年月を掛けたのは初めてであり、今後も無いのではと思う。未だ私の机横に重なっているW邸建築のファイル類。これを片付ける気も起きてこないのは、終わった事の淋しさからの逃避でもあろうかとさえ思える。「完成」来年の草木の芽吹きの頃、完成写真を撮りに行こうと思っている。そこが、自分にとっての完成としたい。

W邸ご家族には本当に本当にお世話になり、どういう御礼の言葉で現そうかといくら頭を巡らせても、言葉が出てきません。そしてW邸の工事を縁に、地元弘前で知り合った工事関連業者にも、心より御礼申し上げます。本当に多くの方の支えがあってこそのW邸であった事は、私自信の大きな財産となり、今後に繋がるものと確信しております。心よりの御礼、厚く申し上げます。

(設計:黒坂)