北海道M邸、手直しと完成後の庭を含めた完成写真を撮りに、中里棟梁と津軽海峡を渡った。今年のお盆前に中里棟梁は一度訪れているが、私は昨年12月初めの引渡し以来の訪問である。函館の西に接する北斗市なのであるが、北海道新幹線の開通に向けた線路工事が進んでおり、また、道路の掛け替え工事も併せ、たった一年であるのに、大きく景観が変わっている場所もあり、時間の経過に感慨を憶える。
訪れた時は実に暖かい日で、日中は半袖でも良いほど。11カ月が経っているが、ケヤキの板も詰まる事無く、ほぼそのままであり、梁と柱の繊維割れが若干見える程度。電気蓄熱暖房の家で、思ってた以上にケヤキが動いてないのは、一年目の冬を出来るだけ暖房による室温を抑えて過ごしてくれたからである。太径や広巾のケヤキを使っていたので、初めの一年の暖房による、急な温度を与えると途端に動き出すケヤキであるが、その辺を充分に承知して頂いた事が分かり、とても嬉しくなる。中里棟梁も「今年もこの温度で過ごして頂ければ、それ以降は木の動きもないでしょう」と、御主人に話していた。
材料と道具を積むので車で訪れ、その道中の長い時間を中里棟梁との会話を楽しみながら移動した。昨年から今年にかけて、北海道北斗市から九州博多まで、中里棟梁には苦労を掛けた。大工としての技量は充たった建築が物語るが、その仕事の手際良さ、図面の読解力、何より人を束ねるその人柄が良い。力で束ねるのではなく、人柄とそれを裏付ける技量があるからこそ、人が自然に元に集まる。そんな印象である。
久々にM邸ご家族ともお会いし、思い出話しに花を咲かせる。大工の事だけでなく、この家の壁の仕上げは塗り壁なのであるが、写真の階段吹抜けの大きな面も、コテむらが見える事無く、温かな柔らかな表情で納まっている。乾燥による割れも全く見えず、天井のヒバ格天井の板もそのままでいる。階段に座り、中里棟梁の手元をしながら、そんな一つ一つに思いを寄せていた。
関わらせて頂いた建築には、全て思い入れがあるが、いつの間にかこうして遠方に来る事も多くなった。数年に渡り遠方に行っているのに、現場や仕事の用事目一杯で赴くので、その地の観光など皆無である毎回の出張であるが、こうして人と繋がっていく事の大切さは、かけがえの無いものと感じる。
(設計:黒坂)