大山の家

「弘前W邸-完成」その3

ダイニング横から階段を二階に上がる。この位置に階段を配したのは、72坪のこの家で、家族が集う場所を通って階段の行き来をさせたかったのと、奥まったキッチンに居ても、奥様が子供達の気配を感じれる様にである。ちなみに2階は玄関や和室のパブリックな空間には載せていない。育ち盛りの子供達の、その足音などの階下への影響を考慮しての事だ。階段途中の壁にも文庫本用の本棚を設置している。写真で見ると簡単に箱で作ってあるように見えるが、とある工夫が施され、それを確認するために弘前市内の図書館や紀伊国屋書店などを御主人と巡ったものだ。階段下も複雑な構造で収納として作っている。無垢材でいきたかったが、万が一に木が動いてしまうと、その構造から手直しで家人に御迷惑をお掛けする事になるので、この階段だけは集成材で作らせて頂いた。

階段

階段

階段を上がりきると、4.5畳大のホールとなる。大きな鏡を設置し、ここは娘さんが習うクラッシクバレエの練習場となる。登り梁と杉の羽目板を現し、木の空間ともなる。吹抜けを設けないこの家で、2階の階高を敢えて抑えた設計とした意図は、手の届くような位置から登る構造を見せたかったからだ。それ程の高さが無くても、低い所があってこそ、高い部分が活きてくる。大工の鳥谷部棟梁が木材加工の隅付けの前に「低すぎないか。4寸上げても良いか?」と聞いてきたが、現設計通りに刻ませたのは、ここに理由があった。直接、照明の明かりを見せたくなかったので、間接照明を天井付近に配し、天井にバウンスさせている。木の板の反射した柔らかな光で、この空間が保たれる。この照明位置も、電気工事を担当した畑井電気さんに三度も位置を修正してもらい、迷惑を掛けた。登り梁を受ける桁がここに大きく入っているので、配線も困難を極めたのだが、私の意図を了解し、快く対応してくれた畑井さんには、この場で御礼を申し上げたい。

2階ホール

2階ホール

階段を上がりホールから180度振り向くと、廊下が続き、子供室と寝室が繋がる。階段の本棚が見えているが、この背側の廊下部分に御主人の書斎コーナーがある。上に少し手摺も見えているが、ロフトもあり廊下と言いつつも部屋の延長として使っている。子供室にもロフトがあるが、この廊下のロフトとも繋がっている。このロフトは「子供の隠れ家」。子供の頃、親に叱られたり落ち込んだりした時、一人人目に触れない場所が欲しい時期もあるが、そういう子供の心理も理解してあげての、準備した場所。「自分の隠れ家」と完成した時に御主人が言ったのには、一同の笑いを誘ったものだ。無垢の材料で出来た低い空間は、子供の頃を思い出させる心の空間でもあろうか。

2階ホールより廊下を望む

2階ホールより廊下を望む

子供室は二室備え、ロフトも持っている。勾配天井で、低い所の天井で2m少し。4寸の屋根勾配なりに天井も登らせた。将来、子供が巣立った時のため、子供室間は建具で仕切ってある。写真左側がそれだ。ロフト下の天井高さは2050㎜。6畳であるが、天井高さでメリハリがあるので、空間としてとても面白い。「天井を低く」と我々が言うと抵抗を示す方も多いが、闇雲に全体を低く抑えるのではなく、こうして高低が活きてくると、漠然と広い空間よりも、ずっと魅力が増す事がある。図面からは伺えない部分でもあるので、ここらはもっと楽しみたい建築の要素でもあると思っている。

子供室

子供室

弘前W邸、先ずは3回に分けて室内を御紹介して来た。雪解けのあと、残りの外構と植栽を持って全工事完了となる。その折に、改めて外廻りは御紹介したい。

(設計:黒坂)