リビングの奥にダイニングを配する。テーブルと椅子は地元の家具職人の手になる作品で、施主が注文され作らせていた。とある高級家具メーカーのものを求める予定であったが、予算的な部分と、たまたま知り合えたその家具職人に惚れこみ、デザインや樹種、椅子の座面の凹凸など綿密に確認しながら作らせた作品である。ちなみにケヤキで作られたそれは、勿論地元の木で作られている。
写真中央、掲額された写真が見えるガラスの向こうに、6畳の土間空間が繋がる。ダイニングとその土間空間、そしてキッチンがそれぞれに接している事になる。窓からは大きな黒松が見えるが、これは隣家の庭の木。隣家の奥庭になり、その家の奥様が丹精されている。土間と同じ高さでテラスを続け、そこは貴重な御近所付き合いの場ともなっている。この敷地で唯一外に開ける空間が、この北側の一画。南側は道路に面し往来の目もあるので、開ける事が出来ず、またプラン上からもプライベート空間は北側に配されるので、何としてもここに外と内の間となる空間を設けたかった。全開口サッシを設け、大きな開口となるそこは、夏は開け放して外に繋がり、バーベキューなども良いだろう。冬でもしんしんと降る雪を見ながら、鉢植えの手入れや、お茶の時間、また家族での食事にも対応する。「北側なのに、こんなに明るいとは思わなかった」とは奥様の言葉だ。西北角に位置し、その両面に大きな開口を設けてる事もあるが、ポッカリと空いた隣家の庭のお陰である事が大きい。敷地を初めて拝見した時から、綿密に隣家の植栽位置、間に施されているコンクリート塀の高さと、こちら側の設計高さをどうするかなど、更地の状態で何度も改め、着工前の地縄(建物の位置を実際に地面に縄を張る事)も、3度も張り直し、敷地との角度を調整した結果でもある。
キッチンとダイニングは引戸で仕切られる。その引戸付近からは写真のようなアングルで視界が開ける。左手に本棚が見え、更にその奥に小窓が見えるが、そこは玄関ホールになる。先日ご紹介したリビングの収納式テレビ棚も一部見える。ダイニングの照明はブナで出来た照明器具だ。これも青森県産となり、弘前市内に店舗を構える店から購入した。ダイニングの照明は敢えてテーブル上だけに照明を配し、廻りを落している。暗くなると、テーブルだけが浮かび上がるようなイメージで、先に書いたようにテレビを見ない御家族であり、書きものや家族の団欒など、このダイニングテーブルに集まる事が殆どだという。全般照明で部屋の隅々まで同じ照度の家が多い中、敢えて明暗差を狙ったそこは、思ったような使い方をされているようで、とても嬉しくなる。
キッチンの奥に奥様専用の家事室がある。完全に北側になる3畳程の小さな部屋であるが、ここからの借景は格別だ。モミジとドウダンツツジが四季を感じさせ、立派な石灯篭も見える。家人共通で読む本はリビングや個室に置かれるが、ここは奥様だけが読む本と、家事用のアイロンや掃除機が収納され、右側に見える引戸開けると、食品などの収納庫となっている。この椅子に座り真っすぐ振り返ると、2枚目の写真の玄関ホールが見える。つまりは図面上、この家事室の窓と玄関ホールの小窓が一直線の位置になり、奥行き22mのこの家で唯一端々まで見通せる位置でもある。これは子供達も学校に行くと一人になる奥様の視線を考慮してのことであり、閉鎖的になりがちな迫った隣地状況を幾分でも緩和したいと、視線の先に抜けた部分を作りたかった事でもある。「良い部屋になりましたね」との問いに「この家で一番景色が良い場所です」との奥様の応えに、その嬉しさの全てが物語られているようだ。
ダイニングの窓から180度反対の引戸を開けると洗面室となる。唯一、外気に直接接しない部屋であるので、白で統一。洗面台は車椅子を考慮した下を開けたものも用意する。奥に洗濯機、洗濯機の前から右に向くと収納室と1階の寝室、左を向くと脱衣室と浴室になる。ここにも小窓が見えるが、この敷地で最も隣家が迫る東側に面した窓だ。隣家同士の境界が丁度この位置で、ぽっかりと1間程だけ開いている場所でもあった。小窓から見ると、さらに向こうの道路を往来する車や通行人が見える。諦めていたこちらサイドの視線の抜けも残しておいた結果だ。「測ったように、この場所に窓があったのは、測ったんですよね?」と聞かれた。これも気付いて頂けて嬉しいことであった。敷地に余裕がある所に住んで居られると気付かないものであるが、間口が狭く隣家が迫った城下町特有の町屋の家では、僅かな明かりや視線の抜ける場所が如何に大切であるかを、改めさせられたエピソードでもあった。また、日当たりが良いから、南面だからと言って、単に大きな開口を設けても、その先が迫る隣家の開口と向きあったり、通りに面していては、開く事無い無駄となる事も知っておくべきであると思う。
。。。続く
(設計:黒坂)