大山の家

「弘前W邸-完成」その1

弘前W邸、完成をお伝えしないまま年を越しておりました。住宅は既に完成し、新居での生活も既に始められている。工事としては、外構の植栽と門工事が残っているが、これは春の雪解けを待っての工事となる。

敷地の広さの割に間口が狭く、奥に長い敷地であり、軒先の雪が落ちるスペースを残して、すぐに隣地となる。隣家も迫り、敷地上、狭い南面に玄関を持って来なければならず、迫る隣家との兼ね合いから、室内にどう自然光を導くかも、この家で試された事の一つであった。結果から言うと、閉じる部分、借景や隣家間の隙間、そして障子を用いて自然光をもたらした。それらは、各室の御紹介で改めて記したい。

玄関

玄関

南間口の最も日当たりの良い場所に玄関が来る。外部のポーチもゆったりとした階段で上がり、車椅子のためのスロープも備える。それに対応するため、玄関には段差を設けず、フラットに仕上げた。玄関框で場を限る事が出来ないために、床見切りに重みのある御影石を敷き、境界とした。杉の羽目板と建具、ケヤキの御柱と飾り棚とし、今はここに施主所有の絵画が飾られている。

和室

和室

玄関正面に10畳の和室を配す。人との交流も多い家柄を示すように、プライベートな空間と離れた位置関係の必要があり、玄関と合わせ和の造りとしている。外構関係の打合せなど、この広間で行われたが、さすがに10畳の床座の和室であると、10人以上は軽く入れる。床座の良さを改めて認識する。1間半の付書院と7尺間口の床の間を持ち、柱と長押など造作材は全て杉で作る。数年で飴色に色が落ちくまで、まだ源平(赤白)が目立つが、柾目を内に向け、入隅(いりすみ)で木目を合わせる大工の心配りは、是非見て欲しい部分でもある。津軽であるとヒバが重要されるが、杉でしか出ない柾目と、それが醸す雰囲気はやはり良いものである。

1階寝室

1階寝室

玄関ホールから杉のガラス入りの格子戸で仕切られた奥が、プライベートな空間である。トイレは1ヶ所なので、このプライベートスペースとパブリックスペースの中間に位置する。トイレは客用でもあるので和室に近い事も要求されるが、もう一つ、トイレに接して寝室が設けてある。ここは将来的に奥様の御両親の寝室となり、御自分方も二階に上がる事が困難となった時に使う寝室だ。敷地東側だが、隣地の板金工場が迫り直射光は望めない。それでも窓は大きく採り、そこに障子を入れ光を拡散させた。障子越しの柔らかな光が心地良い。造付けの化粧台と本棚も備える。写真右側の引戸を開けるとホール前の通路に繋がり、見える壁の向こうがトイレとなる。対面するこちらの引戸を開けると、クローゼットルームであるが、車椅子での生活も考慮し、脱衣場や洗濯室を一直線に付き抜け、浴室に至る。

リビング(テレビ棚オープン)

リビング(テレビ棚オープン)

玄関ホールからガラス入りの杉格子戸を開けるとリビングに至る。更に奥にダイニング、そしてキッチンと続くのでアルコーブ型にリビングを配している。ここにも1間半の窓を設け、障子を入れた。障子は3枚とし、ガラスにかぶる事無く、全開出来る。敷地西側になるここは、現在は隣にアパートが建ったので、視線を考慮しての障子だ。2.5m程の幅の庭空間も確保出来ているので、春以降にどんな庭にするかを相談する事になる。

リビング(テレビ棚クローズ)

リビング(テレビ棚クローズ)

天井は構造を見せる根太天井。こうするためには2階が綺麗に載らなければならないが、子供室が丁度ここに当たり、まだ決まっていなかった仕上げの中でも、1階ではこのリビングだけは構造を現したかったので、打合せで間仕切り位置に惨憺したのは、良い思い出である。出来てみて、施主が意を介してくれた事が何より嬉しかった。そして施主のアイディアである、開閉式のテレビ収納。普段テレビを見ない家であり、家族揃って本が大好きな家族で、また本も大事にする。普通、本も話題はその内容に終始するものであるが、綺麗に装丁された表紙など、本の作り手の作品であり、それを観賞しない手はない。さながら図書館の如く本を観賞し、本の全てを楽しめる家でもある。

。。。続く

(設計:黒坂)