大山の家

「北海道M邸:引渡し」

北海道のM邸も御引渡し出来た。庭工事は施主自らが楽しみながら作るので、春を待つ事になる。建築地の道路向かいにお住まいがあって、それが道道の拡張工事にあたり、そのための新築工事であったので、以前のお住まいに植えられていた木々は、寒くならないうちに移植されていた。お引渡しに訪れたこの日は、生憎の雨模様で、外廻りも植栽工事を待つ状態であった。外観写真は庭の完成を待って撮る事を約束してきた。桜の咲く頃に訪れる事が出来ればと願っている。未だ載せていない、このアングルの反対側、和室の低く抑えた屋根側から庭越しに見える、遠景の山並みの写真を撮ろうと思っている。

東側外観

東側外観

玄関からホールは、ケヤキとヒバを存分に使った。建具もケヤキである。重厚感があるケヤキであるが、床はいつものように単尺で乱に継ぐ。材料を無駄にしない事もあるが、ランダムな継ぎ手は空間に柔らかさを与えてくれると感じている。ちなみに床板は、長物を定型の位置で継ぐ方が、大工の手間はぐっと押えられる。手間=作業時間になるのだが、敢えてそれをしないで、言わずとも手間を掛ける仕事をする事に、職人の意識を感じる。

玄関ホール

玄関ホール

天井にヒバを使った。ホール、その吹抜けの天井は格天井で納めた。記事をアーカイブして頂くと分かるが、加工場に転ばせていた丸太のヒバを加工したものだ。杉やヒバの板に挽いたものは、塗装などしなくても、キラキラと輝いている。この家では当初、天井もケヤキの予定であったのだが、ヒバを強く勧めてそうさせて頂いた。天井と建具と階段がケヤキで、建具も組子と格子を入れたものにするので、重厚感のあるケヤキよりも、ヒバを使いたかったのが理由だ。結果、施主も喜んでくれたので、社長と共に安堵した事が心に残る。

吹抜天井

吹抜天井

木材は全て青森県産材であるが、一本だけ和室の床柱は御主人の用意してくれた、北海道産のイチイである。尺角(30㎝角)で若干の白汰が入るが、赤身の部分の太さと、つんだ年輪を見るとこのイチイの木の年功が想像される。手に入れた時はすでに角材の状態であったが、それでも100数十年の年数は経った木である。北海道の風雪に耐えて育ったこの木からは、迫力を感じる。

和室

和室

2009年4月13日。この日が初めて私が、施主御夫妻に八戸のショールームでお会いした日である。設計打合せもスタートした日であり、この年の秋から木集めにも入った。施主が望み、当社もそれに応えようと集めた丸太。毎年思うのであるが、五戸町にある当社の加工場に積まれた相当数の丸太が、全て無くなる。それらは、全て建築として新たな命を吹き込まれ、ここから旅立っていく。大工だけでは建築は成立しない。初めての北海道での仕事であるので、各業種が上手く揃うか、正直着工前は心配が多かったが、それも杞憂に終わった。屋根板金、左官、建材、塗装などいつもの職方が出向き、いつもの仕事をしてくれた。電気や設備は施主の奔走で地元の業者が参加してくれ、初めてのお付き合いにも関わらず、心ある仕事をしてくれた。ここに、心より感謝申しあげます。

これまで紹介した事の無いスタイルの建築。船外(セガイ、こちらではセンガイと言う)作りとも違う、当社が持っている建築の形の一つ。仕上げに隠される、小屋組み(屋根の構造部分)や、2階の床下の梁組などに特徴を持つ。見えない部分がしっかりしている事が、表面ににじみ出る事を感じるのも、木の建築の良さであると感じる。また一つ繋がった人の和。庭の完成を持って、完成写真としたい。

(設計:黒坂)