大山の家

「軽米T邸:完成」

暮れから正月にかけての低気圧もあり、今年は1月1日から建築中の現場に行って、養生の確認や散乱した物を片付けたりと、正月らしからぬ新年の幕開けでありました。建築中の現場も被害を被る事も無く、安堵した正月休みも終わり、5日より業務再開をしておりました。改めまして、新年のお慶びを申し上げますと共に、本年もよろしくお願い申し上げます。

リビング

リビング

旧年12月にお引き渡しを終えた「軽米T邸」その完成の様子をお伝えしたい。小学生のお子さん二人にご夫婦、御主人の両親が住む3世代6人が住む家だ。ご家族共に、底抜けに明るい性格で、お会いしても家の事よりも趣味や自然の事、酒の事など、多趣味を現すように、様々に話しが弾む。完成引き渡しと共に、お会いする機会も減る事になるのが、本当に淋しいと感じる。この思いは、この軽米T邸のご家族に限らず、木集めから始める家造りでは、毎回このような心境になる。家造りを通して、こうして心通う事を学んでいる事を実感する。

吹抜け

吹抜け

この家は、リビング上の吹抜けを介して、2階の子供室や寝室に繋がる。親戚の寄りあいもあるので、和室は8畳の二間続きであり、その一つはリビングに襖で繋がる続き間で、御父上の茶の間ともなる。畳の上にじかに座る生活と、リビングのソファーに座る椅子座の生活が混在するこの家は、昨今の日本の住宅に求められる和室への性格そのもののように思う。

続き間和室

続き間和室

農家でもあるこの家は、田植えの時など親戚も集まり、長靴のまま休憩のお茶を飲んだり、普段でも誰彼となく訪れては、世間話しなどをしていく。施主が準備した薪ストーブがあったので、リビングの一部を土間にして、土足のままそこで火を囲んで話を出来るスペースを設けた。火を見て生活出来る、今の時代では、何と贅沢な事であろうと思う。火の爆ぜる音を聞きながら、薪をくべ火の様子を見る。ちなみに、このストーブは鍋を掛けて煮炊きも出来るし、内部でピザなども焼けるようになっている。これは後から知った事であるのだが、従前に分かっていれば、キッチンからここへの接続も考慮したので、設計者として悔まれたが、ダイニングとリビングに直接繋がっているので、それは重宝しているとお聞きし、安堵している。

薪ストーブ

薪ストーブ

敷地は西側道路で、西にこのような山並みが見える。赤松がチラホラ見え、ナラと落葉松が混じる。南面は御両親の寝室や和室に充てたので、この開けた西面にリビングを設け、2階個室からもこの方向の眺望を採り入れる。四季を感じる山の木々、そしてここに沈む夕日が何より美しい。写真好きには、この夕陽の沈む頃のオレンジ色の斜光が差す時間を「マジックアワー」と呼ぶのであるが、家の中から山並み越しに見るマジックアワーの光は、お金を出しても買えないもので、格別の時間をこの家に届けてくれる。

外観

外観

この冬の雪解けの後、アプローチの階段や植栽を施す事になる。その頃にまたお邪魔させて頂くのが、今から楽しみである。新しい家での、これまでの生活が不都合無く送れているのかなど、引渡しの後も心配が無くならないのが設計稼業でもあるが、とても快適に過ごしている旨の言葉を頂いた。春のカタクリの咲く頃には必ずお邪魔する事を約束した。これからのお付き合いがここから始まる。

(設計:黒坂)