大山の家

「盛岡K邸:再訪」

完成して3カ月が経った。先日、完成祝いの席を設けて下さり、私にもお声を掛けて頂いた。営業の中村と社長大山は打ち合わせで盛岡に入るという。たまたまのそういう日があり、私と監督の月舘はそれではと、ついでにこの家の夜景写真を撮るのと、暖房時期の前の点検のために盛岡に向かった。

お引き渡しには私も同席したが、それ以来であるので3カ月振り。完成時に入れた什器類のレイアウトもそのままに、子供達5人が1階と2階を行き来しながら遊び回り、そして上の子が下の子の面倒を見ている。それを母親がキッチンから視線を少し動かすだけで垣間見る事が出来、南側の大きな開口から望む木々に、隣接の公園が望める。子供達の専用の遊び場となっているこの公園もキッチンからの視界の範囲だ。はたして設計の意図そのままの生活をこうして拝見でき、その深い設計力に頷く。この生活そして建物の構造を支える強靭な架構が見える事の安心感。生活を伴って、改めてこの家の懐の深さが見えてくる。

玄関アプローチ

玄関アプローチ

それぞれに打ち合わせや仕事を終え、夜にこの家に改めて集った。「夜の照明がとにかく綺麗なんです」と奥様から言われていたが、その光景が眼の前に広がる。大きな空間特有の暗さを感じる事は無い。直接照明と間接照明を上手く配した照明の中、家人が過ごす様子を家の外からカメラを構えて拝見していたが、ご家族のお人柄そのままの家族の姿をファインダー越しに感じる。この大きな南側の開口部から見える生活が、まるで映画の中のワンシーンのようで、つい「綺麗だ」とつぶやく。

完成した家に完成祝いで呼ばれる「こんな嬉しい事はない」と社長大山も言っていた。「子供達が自分の家とは言わないで、大山の家って言うんですよ」とおっしゃっていた。工事が終わって自分達に引き渡された時に「もう会えなくなる」と淋しさが先に立った、とも言って頂いた。「黒坂さんなんですよね、最初にご案内くださったのは」と展示場に来場された時の事も、しっかりと憶えていて下さっていた。ご主人、奥様と杯を交わし、子供さんとも近所の公園の池まで案内もして貰った。子供達も営業中村になつき、年の離れた友達同士に見えるし、子供達もそう思っているだろう。「また来るからね」と子供達と握手を交わしていた。

南東側夕景

南東側夕景

家を建てたいと思い東北各地の展示場を巡り、丁度完成した当社展示場を訪れてくれた事がきっかけであった。そこから2年に渡り、時折に顔を見せて下さった。口数は少なかったがその真剣な眼差しで、感じられ考えられている事が分かる。私も聞かれる事以外を答える事はなかった。「実は家を建てたいんです。木の家を。」この言葉を聞いた時に、心底嬉しかった。嘘偽りなく、心から嬉しかった事を思い出す。

「自然の風で暮らしたい」とおっしゃっていたが、この夏もエアコンを使わず、窓を開けて過ごされたという。風が通る事の冷涼感は室温の高低と違い、人に心地良い冷涼感をもたらす。「この風が通るのが良いんです」というご主人の言葉に説得力があった。西側の土留め上に鳥の巣があるとの事。ある日そのヒナの一羽が下に落ちて鳴いていたのを見付け、猫も多いので家の中で面倒を見る事に。子供達も可愛さひとしおで、土間に置いた箱から離れなかったそうだ。翌朝、窓外を見るとその親鳥と見られる鳥と仲間達が庭に居た。迎えに来たのだろうと、ヒナを外に出してあげたら、無事に巣に戻って行ったという。人の臭いを嫌う野生の生き物がこうして迎えに来る。このご家族のお人柄を現わすエピソードだった。

南側全景

南側全景

建てて終わりでなく、建ててからが本当のお付き合いになる。毎回のように感じる事であるが、この盛岡の地でも一層その思いを強くした。家造りを通じて知り合え、クライアントとビルダーの関係を超えた人と人のお付き合いになる。そう確信しながら再会を約束した。

K様、本当にありがとう御座いました。K様ご家族の家であり、紛れもなく良い家である事を確認し、周辺の環境も取り入れた本当にこの場所だからこその家。心よりお祝いと、御礼申し上げます。

(黒坂)